結論から言うと、地方馬主は儲からない。 僕は中央も合わせると3年間で累計マイナス約2,300万円(地方は4頭で馬代合わせてマイナス500万円くらい)。でも、辞めたいと思ったことは一度もない。なぜ赤字なのに続けるのか、3年分の数字と心の動きを包み隠さず書いてみる。
所有馬と購入費用
まず僕が所有している(していた)馬の購入費用から。
| 馬名 | 購入先 | 馬代(税込) | 所属 |
|---|---|---|---|
| ウィングブルー | セレクトセール | 2,640万円 | JRA |
| クロイゼルング | JRAブリーズアップセール | 418万円 | 川崎→笠松 |
| ハネダブライアン | セレクションセール | 715万円 | 川崎 |
合計3,773万円。馬代だけで家が建つ。
ウィングブルーはJRAなので中央の話になるけど、地方馬主としてはクロイゼルングとハネダブライアンがメイン。ここでは地方馬の収支を中心に書く。
1年目:セリで手を挙げた瞬間から赤字が始まる
「買うつもりなかった」のに買ってしまう怖さ
最初に買ったのはウィングブルー。2,400万円。正直これで「もう馬は十分」と思っていた。
なのに2頭目。JRAブリーズアップセールに「見に行くだけ」のつもりで行った。このセリには「新規セッション」という、馬主歴3年以内しか参加できないセッションがある。「安く落とせたらいいな」くらいの気持ちだったのに、気づいたらクロイゼルングを380万で落としていた。
3頭目のハネダブライアンはもっと予想外。その年の川崎競馬の馬主補助金に当選してしまった。補助金が出るなら、と思いつつも「もうお金ないし」と自分に言い聞かせていた。なのにセレクションセールに行ったら手を挙げていた。怖いものだ。
維持費が毎月口座から消えていく
馬を買うのは一瞬。でも維持費は毎月かかる。
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預託料: 月11万〜15万円(川崎の方が笠松より高い)
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装蹄料: 月2万円前後
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輸送費: レースごとに3〜5万円
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獣医代: 不定期、怪我すると一気に跳ね上がる
地方競馬の預託料は競馬場別の比較ガイドで詳しく書いているけど、3頭いると月の固定費だけで40万〜50万。1年目は賞金がほとんど入らないから、ひたすら出ていくだけ。
子供たちには「うちは馬をやっていなかったらもっと金持ちだ」と言われている。反論できない。
2年目:初勝利と、移籍判断の大失敗
笠松で味わった初勝利
馬主として最初の勝利は、意外にも地方の小さな競馬場だった。
エリクシールという馬を「サラオク」(競走馬のネットオークション)で購入し、大井で走らせていたが結果が出ず、笠松に移籍させた。2着が続く日々。あるレースでは、いつも騎乗してもらっていた深澤杏花ジョッキーではなく、リーディングの岡部誠ジョッキーが乗ってくれることになった。「これは勝てる」と笠松まで遠征したら、よりにもよって深澤杏花ジョッキーの馬に差されて2着。うまくいかない。
その次走。家でYouTubeの中継を見ていた。特に期待していたわけでもなく、ぼんやり画面を眺めていたら——勝った。初勝利。一人で「よっしゃ!」と叫んだ。現地にいなかったのがちょっと悔やまれるけど、あの瞬間は忘れられない。
クロイゼルングの移籍を半年遅らせて160万失った
2年目の最大のミスは、クロイゼルングの移籍判断。
3歳の3月、川崎と浦和で続けて2着に入り賞金を稼いだ。「まだ南関東でやれるかも」と思ってしまった。地元で応援したい気持ちも強かった。
でもその後、5着、9着と成績が落ちていった。南関東では着を拾っても維持費を賄えないレベルの賞金しかもらえなくなっていた。ここで笠松に移籍していれば、その後の赤字はほぼ消せた。 笠松は月に2回走れば預託料と維持費が相殺できるので。
結局、移籍を決断したのは半年後。5月〜12月の間に約160万円のマイナスを積み上げてしまった。「応援したい」と「経営判断」は別物。これは馬主3年やって一番の教訓になった。
3年目:収支の「読み方」がわかってきた
エース馬がいるかどうかで全てが変わる
3年目に入ると、収支の構造が見えてくる。要するに1頭のエース馬が稼いでくれるかどうかが全て。
ハネダブライアンが川崎で安定して賞金を稼いでくれているから、クロイゼルングの赤字を吸収できている。逆にハネダブライアンが怪我でもしたら一気に赤字が膨らむ。この「集中リスク」は地方馬主の宿命だと思う。
地方競馬の方が回収しやすい理由
中央競馬の未勝利戦1着賞金は約750万。地方競馬(川崎)は約180万。4倍以上違う。
でも、馬代も全然違う。 中央で走れる馬は2,000万〜3,000万。地方なら200万〜700万。僕のウィングブルー(2,640万、JRA)は維持費を除けば+800万だけど、馬代を含めると▲1,800万。一方、ハネダブライアン(715万、川崎)は馬代込みでもプラスに近い。
回収率で考えると、地方の方が圧倒的に現実的。さらに地方には馬主補助金制度がある。詳しい収支データは馬主のリアル収支ガイドで公開している。
「9割赤字」でも辞めない理由
数字では測れないもの
馬主の世界では「9割が赤字」と言われる。僕も3年やって累計2,300万の赤字。奥さんにはリアルな数字は伝えていない。
でも辞めたいと思ったことがない。パドックで自分の馬が歩く姿。レース後に厩舎で「お疲れさま」と声をかける瞬間。口取り写真を撮るときの、あの何とも言えない高揚感。これは金額では換算できない。
共有馬主ならリスクは分散できる
とはいえ「赤字でもいいから馬主やりましょう!」とは言えない。だからこそ僕は共有馬主という仕組みを推している。
20口で割れば、月の維持費は1人あたり2〜3万円。馬代も1口なら10万〜35万。この金額なら「趣味」として許容できる人も多いはず。
これから地方馬主を始める人へ
最低限の予算感
馬代+500万円。 これが僕の考える最低ライン。
馬代500万の馬を買うなら、トータル1,000万は用意しておきたい。500万はデビューまでの維持費と、最初の1年を賄うためのバッファ。賞金が入り始めるまで最低半年はかかるし、入らない可能性も普通にある。
馬主は投資じゃなくて趣味
3年間の収支をまとめると、馬主は「投資」としては成立しない。 ただ、ゴルフや車やヨットと比べても遜色ないくらい充実した体験ができる趣味だと思っている。
馬主を始めるか迷っている人は、まず馬主になるためのステップを読んでみてほしい。「いくら損するか」より「何が得られるか」で考えた方がいい。正直、僕はまだ答えが出てない部分もある。でも3年やって、後悔はゼロだ。
